派遣看護師で働く!転職前にわかる業界仕事おまとめ
目次
1.看護師派遣の仕事で多い勘違い
「看護師資格を生かして、短期・中期のバイトはないか」と探していて、こんな案内を見たことはないでしょうか?
「健康診断などの単発のバイトならば、人材派遣で探しましょう」
「修学旅行に同行するツアーナースは、扱っている人材派遣会社とそうでないところがあります」
いずれも間違いです。そんな募集をしている人材派遣会社はありません。
30日以下の人材派遣は「日雇い派遣」と呼ばれ、看護師に限らず、どんな業界のどんな職種でも原則的に禁止されています。
健康診断限定の看護師もツアーナースも、よほど例外的なケースでない限り、人材派遣で扱うと法律(労働者派遣法)違反になるのです。
「看護師のお仕事案内」といったサイトでさえ、こういった状況です。
「ナースフル」や「ナース人材バンク」などの看護師転職サポート会社を、「人材派遣会社」と間違って呼んでいる看護師さんもまったく珍しくありません。
人材派遣のシステムを理解している看護師さんのほうが少ないぐらいかもしれません。
人材派遣は癖のある働き方です。デメリットも決して少なくありません。その一方で、うまくハマればメリットもあります。
ですから、上手に利用するには、まずは人材派遣についての基本的なことから知っておく必要があります。
ほかの職業でも同じことなのですが、以下、できるだけ看護師の場合に即してお話ししましょう。
2.人材派遣は間接雇用
2-1.人材派遣の場合、雇い主は病院などではない
「看護師(労働者)が病院などで働く」という場合、「直接雇用」と「間接雇用」というふたつの形があります。
一般的なのは「直接雇用」の方です。正社員・正職員はもちろんのこと、パートやアルバイトも通常はこちらの形です。
雇い主は病院やクリニック、老人ホームなどです。「医療法人」や「福祉法人」、「経営者」と考えても同じことです。
職場はその病院などの中や、そこがかかわっている場所です。
「あなたを雇う・雇わない」という判断は、その雇い主側がしますし、お給料もそこから出ます。
一方、人材派遣は「間接雇用」です。
あなたの雇い主は、人材派遣会社です。(このため、派遣で働く人を「派遣社員」という言い方もします)
あなたに支払われるお給料も人材派遣会社から出ます。
働く場所は病院などの医療機関だったり、老人ホームの福祉施設などいろいろあります。日々の仕事の上での指示も、そこの職員らから受けます。
法律上は違う定義があるのですが、実際上、あなたは「人材派遣会社から、病院などに貸し出されている」という状態です。
派遣先(病院など)と人材派遣会社の間では、「派遣契約」が結ばれます。派遣先は人材派遣会社に対して、「派遣料金」を支払います。
あなたに支払われるお給料は、その派遣料金の中から出ています。
このお給料はパート・アルバイトと同じく、時給制です。
同じ仕事内容ならば、パート・アルバイトよりもやや高くなることが多いようです。
2-2.看護師転職サポートと人材派遣の違い
ネットなどで求人広告をチェックしていると、職業紹介(看護師転職サポート、バイト紹介)も人材派遣も同じように、「仕事内容」「必要な資格」「給料」「勤務時間」などが出ています。
このため、その求人が職業紹介会社によるものか、人材派遣会社によるものか、全く区別していない人もいるようです。
実際に、「派遣社員の身分で働いているのに、派遣先の病院に就職し、社員になったと誤解している看護師さん」の話まで聞こえてきます。
このふたつ(職業紹介と人材派遣)には次のような違いがあります。
職業紹介会社の場合、雇い主やあなたとかかわるのは、その転職の時だけです。「転職後もご相談に乗ります」などとしている場合もありますが、あくまでアフターサービス程度ものです。
この時の費用は雇い主から、職業紹介会社に支払われますが、その時の1回限りです。
つまり、あなたが働き始めると、職業紹介会社のやることは、一通り終わったことになります。
一方、人材派遣の方は、あなたが働いている期間、その人材派遣会社がずっとあなたの雇い主であることには変わりはありません。
お金の流れも、「病院などの側が派遣料金を人材派遣会社に支払う。あなたへのお給料は、その中から人材派遣会社が支払う」のままです。
もし、なにかあなたの側から職場に関するリクエストがあったり、職場の中で大きなトラブルがあってその処理をしなければならないことがあれば、人材派遣会社も当事者としてかかわることになります。
3.看護師が人材派遣で働ける条件
3-1.看護師の人材派遣は原則禁止
人材派遣は以前は、どんな職業・職種でも禁止されていました。それがどんどん緩められる形で広がってきています。
ですが、今でも4つの業種・業務だけ原則的に禁止されています。
「警備」、「港湾運送」、「建設」、そして「医療」です。
「医療」というくくり方ですので、看護師だけではなく、医師、薬剤師、助産師、放射線技師なども同じ扱いです。
3-2.例外扱い①
ただし、医療関係であっても、例外として認められているパターンがあります。
ひとつが「紹介予定派遣」です。
これは「派遣期間終了までに派遣先(病院、老人ホームなど)と派遣労働者(看護師など)の間で同意すれば、直接雇用に切り替えることができる」というものです。
つまり、「最初は人材派遣会社から送られてきている看護師だけども、派遣期間が終わると同時に、病院・老人ホームから直接雇ってもらう予定になっている」という形です。
よく、「派遣社員から正社員(正職員)に切り替わる」と説明されていることがありますが、間違いです。
あくまで「直接雇用」です。正社員だけではなく、パート・アルバイトの場合もあります。
「人材派遣会社から出ていたお給料が、病院などから直接もらうように変わる」といったほうがイメージがわきやすいかもしれません。
このパターンの場合の派遣期間は最大で6か月です。
3-3.例外扱い②
「産前産後休業、育児休業、介護休業中の労働者の代替業務」の場合も、看護師ら医療関係者の人材派遣が可能です。
つまり……「赤ちゃんが生まれるので休みを取っている」「親の介護のために、しばらく休職する」という人がいる場合に、その穴埋めとしてならば、人材派遣でも入ることができる……ということです。
こういった条件ですから、期限は「その人が戻ってくるまで」です。
3-4.例外扱い③
「病院・診療所等(介護老人保健施設または医療を受ける者の居宅において行われるものを含む)以外の施設(社会福祉施設等)で行われる業務」も可能です。
もう少しわかりやすくすると、「病院やクリニック、訪問看護などの医療関連でなければいい」ということです。
具体的には、老人ホーム、デイケアセンター、企業や学校などの医務室などです。
「応募には看護師資格が必要で、看護師としての経験も生かせる。だけども、仕事内容は看護師そのものではない職場」とイメージしておけばいいでしょう。
この形で働ける期間は、職種や「労働組合などの同意があるかないか」などで変わります。看護師の場合は最大でも3年です。
3-5.例外扱い④
もうひとつ「例外扱い④」として、「僻地・離島の病院など」があります。ですが、これは医師だけです。看護師の場合は、やはり不可です。
4.日雇い派遣の禁止について
4-1.31日以上
労働者派遣法では「日雇い派遣」が禁止されています。
「日雇い」という言葉からは「1日だけの単発バイト」のイメージを受けるかもしれません。ですが、実際には「30日以下のもの」ということになっています。
これが特に問題になるのは、先に挙げた「例外扱い③」の場合でしょう。老人ホーム、デイケアセンター、企業や学校などの医務室などへの人材派遣のことです。
人材派遣自体は可能なのですが、必ず期間を「31日」以上にして契約しなければなりません。
この記事の冒頭で、「健康診断もツアーナースも、よほど例外的なケースでない限り、人材派遣で扱うと法律(労働者派遣法)違反になるのです」と書いたのは、このことです。
「31日分のスケジュールが決まっている健康診断」や「30泊31日の修学旅行」でもないかぎり、この「日雇い派遣の禁止」に引っかかってしまうのです。
4-2.日雇い派遣をやってもいい例外的な看護師
ただし、たとえ30日以下の派遣であっても、それをやっていい労働者もいます。例外とされているのです。
その条件は次のようなものです(看護師以外も共通)。
①応募時の年齢が60歳以上
②高校生・大学生・専門学校生・大学院生(ただし、定時制・通信制に通う者、事業主の命により(雇用関係を存続したまま)、大学院等に在学する者は除く)
③副業として日雇い派遣をする人(ほかに本職があって、その年収が500万円以上。あるいは世帯収入が500万円以上)
これを看護師に当てはめて考えると次のような感じでしょうか。
①はまだしもいるかもしれません。「病院を定年退職したけれども、空いた時間で働きたい」というパターンです。
②は「看護師資格を持っていて、その上、今は昼間コースの学生」という条件を満たさなければなりません。
パターンとしては、「専門看護師の資格を取るために、スパッと病院も辞め、今は大学院に通っている」「准看護師はすでに持っているけれど、正看護師を取るために大学の看護学部に入った」というぐらいしかありません。
③には「結婚していて、夫の年収も足すと500万円以上になる」「親と一緒に住んでいて、親の年収が500万円以上」などといったパターンも含まれます。
「人材派遣での収入はあくまで、“足し”程度。それに生活がかかっていないのならば、やってもいい」ということですね。
このようにかなり限られた人しか、例外扱いにはなりません。
そのため、人材派遣会社でも、これらの人を受け入れるような派遣先を探すのに熱心にはなれないようです。
公開・非公開を含め、実際に日雇い派遣が募集されていることは、まずありません。
5.看護師が派遣で働くメリット・デメリット
ここまでにご説明したように、「看護師の人材派遣は禁止で、例外の場合だけ認められる。その例外のパターンがたくさんある」といった状況です。
ですが、その「例外のパターン」で実際に募集のあるのは、次のふたつぐらいです。
①紹介予定派遣での医療機関(病院・クリニックなど)や福祉施設(老人ホームなど)
②一般的な派遣。ただし、医療機関以外(老人ホーム、デイケアセンター、企業や学校などの医務室など)
②の場合は、法律上は「1か月(31日)以上」ならばOKですが、実際には「3か月」より短いものはまずは見つかりません。
形がかなり違いますので、メリット・デメリットも①と②で分けて考えたほうがいいでしょう。
5-1.紹介予定派遣のメリット
もう一度思い出して欲しいのは、「派遣期間終了までに派遣先(病院、老人ホームなど)と派遣労働者(看護師など)の間で、同意すれば直接雇用に切り替えることができる」という点です。
つまり……「派遣期間終了後に直接雇用に切り替わる」というのを、看護師の側から断ってもいい……ということです。
これは「どんな職場かわからないのに、正社員や正職員になるのは不安。なった後に『思っていたのと違った』となったらどうするのか」と考えている人には魅力のあるシステムでしょう。
法律上の期間は最大6か月ですが、実際には3か月程度で結論を出すことが多いようです。
その間、実際に働いてみて、「気に入った。社員になろう」「ここはやっぱりやめておこう」と決めることができるのです。
「同意すれば」ですから、もちろん、相手から断られることもありえます。
ですが、これも「面接2、3回で決まるのではなく、じっくりと自分のことも知ってもらった。『相手(病院など)が欲しいタイプの看護師ではなかったのに、間違って採用されてしまう』のを防ぐことができる」と考えれば、看護師側からも考えても、むしろメリットです。
もし、これが正社員になって、数か月でやめるとなると大変です。
周囲から引き留められ、すったもんだするかもしれません。
それで本当に辞めると、「仕事が長続きしない人」ということになり、次に採用試験を受けに行く時も歓迎されません。いわゆる「履歴書の傷になる」という形です。
一方、派遣はパートやバイトに近い立場なので、短期しか勤めていなくても問題なりにくいのです。
「履歴書の傷」にもなりません。そもそも、履歴書に書く必要があるかどうかで迷う程度のものです。
5-2.紹介予定派遣のデメリット
紹介予定派遣で予定されているのは、あくまで「直接雇用への切り替え」です。
この「直接雇用」は正社員・正職員とは限りません。パート・アルバイト、臨時職員、契約社員などでも法律上の問題はありません。
「本当はできるだけ早く正社員になりたい」と思いながらも、派遣を選んでいる人もいるでしょう。
正社員はなんといっても身分が安定しています。定年まで勤めることもできます。
それが、「派遣社員からパートになっただけ」となると、不安定な身分はまだ続くことになります。
また、そこから改めて正社員への道を見つけなければなりません。これでは紹介予定派遣は無駄な寄り道にしかなりません。
5-3.一般的な派遣(ただし、医療機関以外)のメリット
メリットがあるのは、「しっかりと役割を果たしてくれる人材派遣会社、あるいはそういった担当者に当たった場合」に限られます。
人材派遣会社の担当者は、病院や老人ホームなどの派遣先に対しては、あなたの味方になる人です。
「職場での仕事内容を決める」「その約束した内容を守らせる」といったことも、あなたに代わってやってくれます。
たとえば、無理な残業・夜勤があるなどの問題があれば、自分で派遣先に掛け合うのではなく、まずは担当者に話します。
解決のための交渉は担当者がやることになります。
5-4.一般的な派遣(ただし、医療機関以外)のデメリット
「職場での立場がわかりにくい」「人間関係が難しくなることがある」というのは気をつける必要があります。
一緒に働いていても、あなたは正社員やパート・アルバイトの人とは違う立場の人間です。「仕事の指示はその職場で受けていても、雇っているのは人材派遣会社」ですから。
「仕事の内容はほぼ同じなのに、正社員は月給制で、さらにボーナスがつく。自分は時給制で、ボーナスもなし」といったことで不満を感じる人もいます。
また、「身分が不安定」です。
人材派遣では事前に雇用期間が決められていて、契約の書類にもそれが書かれているはずです。それさえ守らず、短縮されるようなことさえあります。
「経営が悪化して、看護師の数を減らす」「人材派遣に頼らず、正社員を採用することに方針を変えた」といった理由が多いようです。
これについては実は、派遣先(病院や老人ホームなど)ではなく、人材派遣会社が責任を持っています。
人材派遣会社は、事前に決めた期間は、派遣先をよそに変えてでも仕事は確保し、賃金も支払うのが法律上の決まりです。
ですが、そのまま終了させられることが多いのが現実です。
6.人材派遣で働くときの注意
「一般的な人材派遣で働くメリット」の中で……メリットがあるとすると、「しっかりと役割を果たしてくれる人材派遣会社、あるいはそういった担当者に当たった場合」に限られます……と書かざるをえない状況です。
「看護師を派遣先に送り込んだ後、全くほったらかし」という派遣会社もあるのです。
こういった人材派遣会社を避けるには、口コミのチェックが有効です。つまり、「実際に使ってみた人の評判を、ネットなどで調べてみる」ということです。
頼りにしていい人材派遣会社かどうかは、「派遣先に問題があった時に、どういった対応をしてくれたか」で、ほぼわかります。
その問題としては、「事前に話のなかった業務まで任される」「忙しすぎる」「仕事上の指示がでたらめ」などが考えられます。
ろくに状況の把握もせず、ひたすら「ガマンしてくれ」しかいわない……といった話が口コミで広がっているところは現実にあります。
もちろん、そういったところはやめておきましょう。
・「そんなところに送り込んで申し訳なかった」と自分の側(人材派遣会社)の非をしっかり認める
・比較的解決しやすい問題ならば、ちゃんと交渉して改善してくれる
・すぐに解決しないような問題ならば、代わりの派遣先を用意してくれる
こういった対応のところならば大丈夫でしょう。