禁煙外来おまとめ (制度の仕組み、看護師の仕事内容)
ようやく、たばこの害がよく知られるようになりました。喫煙人口もどんどん減っています。
ですがその一方で、たばこをやめたくてもやめられない人は今でもいます。たばこが手放せないのは単に習慣のせいだけではありません。ニコチンなどの有害物質による依存症という病気でもあるのです。
その依存症を治すための診療科、禁煙外来を設ける医療機関も増えています。いくつかの条件をクリアすれば健康保険も適用されます。
禁煙外来は新しい診療科ですが、喫煙者にとっても、あるいは看護師などの医療関係者にとっても、特別な存在ではなくなってきています。
1.禁煙外来とは
禁煙外来は専門外来の一種です。
総合病院の中の診療科の一つとして設けられていることもあれば、これ単独の医院として設けられていることもあります。
1-1.禁煙外来での治療
初診の場合、次のような順番で診察が進められます。
(1)ニコチン依存症のチェック
これはTDS(Tobacco Dependence Screener)とも呼びます。「自分が吸うつもりよりも、ずっと多くたばこを吸ってしまうことがありましたか」といった簡単な質問10個にYES・NOで答えます。5ポイント(半数)以上がYESならば、ニコチン依存症と判断されます。
(2)一酸化炭素濃度の測定
一酸化炭素はたばこの煙に含まれる代表的な有害物質です。装置に向かって約20秒、息を吹きかけます。この数値が、治療スタート時点での記録です。
今後、たばこを吸わなくなるほど、この数値は減っていくはずです。つまり、治療の進み具合のバロメーターになります。
(3)禁煙の開始日を決める
診察を受けて、その場から禁煙するわけではありません。1週間後ぐらいからにすることが多いようです。
また、医師との間での約束のために、患者は「禁煙宣言書」にサインします。
(4)カウンセリング(喫煙状況の確認とアドバイス)
1日何本吸っているのか、いつ吸い始めたのか、ニコチンが切れるとどんな状況になるのかなどを問診します。同時に今の健康状態もチェックします。
この結果、禁煙をすすめる上での注意事項などが伝えられます。
(5)禁煙補助薬を決める
今のたばこの吸い方や健康状態から、禁煙補助薬を決定します。ニコチン製剤とバレニクリンが代表的です。
ニコチン製剤の場合、たばこの依存症の原因となるニコチンをガムやパッチに含ませ、たばこ以外から与えるようにします。これで目先の禁断症状を抑え、だんだんと量を減らし、やがてはゼロにします。
バレニクリンは内服薬(飲み薬)です。脳に働きかけ、「たばこを吸いたい」という気分を弱めます。また実際に吸うと満足感が低くなります。「たばこがおいしくない」ということですね。
禁煙治療は12週間(3か月)が基本です。この間に初回、2週間後、4週間後、8週間後、12週間後と、合計5回通院します。
ここまで禁煙が続いていれば、以後の注意事項をアドバイスしてもらい、それで治療は終了です。
1-2.禁煙外来と健康保険
診療科を「禁煙外来」とするには特別な条件はありません。医療機関側が勝手に名乗っていいのです。
ただし、健康保険での治療をするには、「医療機関の敷地の中がすべて禁煙である」「治療経過確認のための一酸化炭素測定器が用意されている」などの条件があります。つまり、「禁煙外来にも健康保険が適用されるところと、そうでないところがある」ということです。
また、患者側には次のような条件があります。
35歳未満の場合は、
(1)ニコチン依存症のチェック(TDS)が5ポイント以上
(2)すぐ(1か月以内)に禁煙を始めるつもりがある
(3)禁煙治療に同意し、そのことを示す文書に署名している
35歳以上の場合は、これらに加えて、
(4)1日の平均喫煙本数×これまでの喫煙年数が200を超える
、です。
これで12週間・診察5回の治療を健康保険の適用で受けることができます。金額は6,000円(自己負担3割の場合)前後です。
現実には、12週間5回の治療では終わらない場合もあるでしょう。その場合の追加分は、健康保険が適用されません。また、前回の初診から1年以内に治療を受けなおす場合も、診察&治療自体は可能ですが、健康保険は適用されません。
健康保険なし(自由診療)で、12週間・診察5回の治療を受けた場合、費用は医療機関側が決めることができますが、20,000円程度がひとつのメドです。
2.禁煙外来の看護師
2-1.禁煙外来専属の看護師
先に申し上げたように、健康保険が適用される禁煙外来と、そうでないところがあります。看護師が自分の勤務先・転職先として考えるのならば、条件が整っている健康保険適用のところを考えたほうがいいでしょう。
また、その健康保険適用のための条件には「禁煙専属に看護師か准看護師が1名以上勤務している」というのもあります。この場合の専属とは、「内科などほかの診療科と兼務していない」という意味です。
専門性を求めるのならば、その専属になるのが一番です。
2-2.仕事内容
実は、医師と看護師でどのように役割分担をするかは、その病院・医院ごとにかなり異なります。
先に挙げた初診での手順にしても、ニコチンの依存度チェック以外は、ほとんどを医師一人がやり、看護師はあくまで補助だけというところもあります。
一方では、カウンセリングもほぼ看護師に任せきりになるようなところもあります。この場合は、たばこを吸う本数などだけではなく、生活習慣まで把握し、しかも禁煙に向けての指導もし、患者にそれを守らせることも必要になります。
患者の多くは、自分での禁煙に失敗した結果、禁煙外来を頼るようになっています。依存症という精神面の問題も抱えています。指導通りにしてもらうのはそう簡単ではありません。かなりのコミュニケーション能力が必要になります。
2-3.禁煙外来のメリット・デメリット
・メリット
看護師として禁煙外来に勤務する場合のメリットの代表は、「精神的な負担が少ない」でしょう。
たばこで健康を崩すことはありますが、もし深刻なものであればほかの診療科が担当します。禁煙外来に来る患者は、重症だったり生きる死ぬの問題を抱えていることはありません。
それでいて、仕事の満足感は高いです。
今現在生きる死ぬの問題を抱えていないといっても、その患者さんの健康に貢献しているのは間違いありません。
特にカウンセリングまで任されているような場合は、自分が直接患者さんに指導をします。患者が禁煙に成功した場合は、ほかの診療科以上に、医師だけではなく看護師さんへの感謝の言葉もあるでしょう。
また、禁煙外来は増加傾向にあります。いったん経験を積んでおけば、転職先には困らないでしょう。
・デメリット
デメリットとしては、ほかの外来と共通のものと、禁煙外来特有のものがあります。
共通のものとしては、給料が安いです。
入院病棟などと違い、夜勤や残業がありません。ただ、これは体への負担が少ないというメリットと引き換えです。
禁煙外来特有のものとしては、「土日診療や夜間診療のところも少なくない」があります。
たばこへの依存症は、一日単位で症状が悪化するようなものではありません。「すぐに医者に診てもらわなければ」とはならないので、平日の昼間に仕事を休んでまで病院・医院に走る人は多くはありません。
禁煙外来の側もそれに合わせる必要があるのです。これは家庭との両立を優先するママさんナースらにはマイナスポイントでしょう。
意外に患者さんの扱いが難しいのもデメリットです。
せっかく禁煙外来まで来ていても、本当に禁煙する意思があるのかどうか、あやふやなことが少なくありません。
そうやって、簡単にたばこを手放せないのも、ニコチンによる依存症状なのですが、治療する側にも厄介な問題です。
指導したことを守ってくれるかどうかわかりません。
実際、禁煙外来の治療での成功率は約50パーセントとされています。つまり、半数は5回の通院では禁煙できなかったり、途中で来なくなってしまう、あるいは、しばらくしてまた吸い始めるのです。
2-4.資格
禁煙指導関連の資格・認定制度を用意している団体としては、日本禁煙科学会(JASCS)と日本禁煙学会があります。
日本禁煙科学会のものは、「禁煙支援士」といいます。「初級禁煙支援士」と、その上級の「禁煙支援士(中級)」「上級禁煙支援士」の3種類あります。
初級の場合の認定条件は、
(1)日本禁煙学会の会員であること
(2)講師集会などに参加し、所定のポイント・3点以上を獲得していること
(3)筆記試験に合格すること
などです。
3種類とも医師や看護師だけが対象ではありません。実際に薬剤師や管理栄養士、学校教員などにもこの資格を取る人がいます。
日本禁煙学会の方は、「日本禁煙学会 禁煙サポーター」「日本禁煙学会 認定指導者」があります。このふたつは医療関係者以外でも取れますので、看護師が意識しておきたいのは、「日本禁煙学会 認定専門指導者」です。
こちらも試験制度になっています。認定専門指導者の受験資格は、
(1)医療の国家資格あるいはこれに準ずるものを持っている
(2)5年間日本禁煙学会会員である
(3)5年間の禁煙指導歴・禁煙推進活動歴・防煙教育歴のいずれかがある
(4)禁煙講師歴・学会発表歴・論文執筆歴のいずれかがある
(5)教育施設あるいは教育関連施設において、所定の研修カリキュラムを修了している
、です。
この認定を受ければ、「日本禁煙学会認定専門指導者・専門看護師」を名乗ることができます。
看護師として禁煙外来に勤務したり、専属となるには特別な資格は必要ありません。
ですが、これらの資格(認定)を持っていることで、転職に有利になったり、専属になれる可能性が高くなります。何よりも、自分自身が仕事内容に詳しくなり、自信も持てるようになります。