診療看護師(特定行為研修)で働く!転職前にわかる業界仕事おまとめ
診療看護師=ナース‐プラクティショナー(nurse practitioner)、は一般の看護師よりも進んだ処置(診察・診断・薬剤の処方・腰椎穿刺等の処置など)ができる職種です。ここでは診療看護師(別名、特定看護師)の仕事内容いろいろを、まとめて解説しています。
目次
1.特定行為研修を受ける
資格を持つことは、看護師としてのキャリアアップ・スキルアップにつながります。
財団法人・日本看護協会が主催する認定看護師、その上級の資格である専門看護師が代表的なものです。これら以外では、それぞれの医療分野の学会などが主催するものもあります。
さらにもうひとつ、看護師としての自分の価値を高めるのに、「特定行為研修を受ける」という選択肢が加わりそうです。
この「特定行為に係る看護師の研修制度」は平成27(2015)年10月に始まったばかりです。
資格制度や認定制度ではなく、あくまで研修というスタイルです。実際に「どのくらいのスキルアップになるか」、「それによって職場内での自分の立場がどのくらい変わるか」、「転職に有利になったり、給料などの待遇がアップするのか」などは、まだはっきりしません。
しかし、厚生労働省が力を入れており、今後、あなたの周りにもこの研修を済ませた看護師がたくさん誕生することにはなりそうです。
2.特定行為とは
特定行為とは、「看護師が行う診療の補助のうち、より高度な専門知識・技術などが必要と考えられる行為」のことをいいます。
2-1.特定行為区分
その特定行為で、内容的に近いものをひとまとめにしたものが、特定行為区分です。
2015年2月現在、特定行為区分は21、特定行為は38あり、次のようになっています。
・呼吸器(気道確保に係るもの)関連
経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
・呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連
侵襲的陽圧換気の設定の変更
非侵襲的陽圧換気の設定の変更
人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
人工呼吸器からの離脱
・呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連
気管カニューレの交換
・循環器関連
一時的ペースメーカの操作及び管理
一時的ペースメーカリードの抜去
経皮的心肺補助装置の操作及び管理
大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整
・心嚢ドレーン管理関連
心嚢ドレーンの抜去
・胸腔ドレーン管理関連
低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
胸腔ドレーンの抜去
・腹腔ドレーン管理関連
腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された 穿 刺針の抜針を含む。)
・ろう孔管理関連
胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換
膀胱ろうカテーテルの交換
・栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連
中心静脈カテーテルの抜去
・栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連
末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
・創傷管理関連
褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
創傷に対する陰圧閉鎖療法
・創部ドレーン管理関連
創部ドレーンの抜去
・動脈血液ガス分析関連
直接動脈穿刺法による採血
橈骨動脈ラインの確保
・透析管理関連
急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理
・栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連
持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
脱水症状に対する輸液による補正
・感染に係る薬剤投与関連
感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
・血糖コントロールに係る薬剤投与関連
インスリンの投与量の調整
・術後疼痛管理関連
硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
・循環動態に係る薬剤投与関連
持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整
持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整
持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
・精神及び神経症状に係る薬剤投与関連
抗けいれん剤の臨時の投与
抗精神病薬の臨時の投与
抗不安薬の臨時の投与
・皮膚損傷に係る薬剤投与関連
抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整
2-2.特定行為が可能な看護師と一般の看護師の違い
ただし、このすべてが「医師の指示の下、手順書により……行う」とされています。つまり、いくら研修を受けた看護師でも自分だけで行うことはできません。
というのは、今のところ、法律(保健師助産師看護師法)に定められている「看護師とは……『療養上の世話』又は『診療の補助』を行うことを業とする者」には全く変化はないからです。
診療の補助を越えることができないようになっているわけです。
これら特定行為を見て、「『医師の指導の指示の下……』ということならば、すでに一般の看護師である自分もやっている」と思えるものもあるかもしれません。
「看護師自身の判断でできる範囲が大きくなる」というのが違いです。
厚生労働省のパンフレットなどで具体例として挙げられているのが、「脱水症状を繰り返す患者がいる場合」です。
一般の看護師が点滴をする場合、次のような手順を踏むことになります。
①医師が「脱水症状あれば連絡するように」と看護師に指示を出す
②患者を観察した結果、脱水症状を疑う
③医師に報告する
④医師から点滴をするようにとの指示が出る
⑤点滴をする
⑥看護師が医師に結果を報告する
研修を受けたあとは、次のようにすることも可能です。
①医師が「脱水症状あれば点滴するように」と看護師に指示を出す。その際に、診療の補助内容を記した手順書を作っておく
②看護師の観察の結果、脱水症状が疑われるのならば、自分の判断で点滴をする。ただし、その措置の内容は手順書に従う
③医師に結果を報告する
こうすることで、患者にとっては、素早く必要な措置を受けることができます。医師も手もわずらわせること少なくなり、負担も減ります。
ただし、その半面、「看護師の負担と責任が増す」ということを心配する関係者もいます。
3.特定行為研修を受けるには
この特定行為研修を受ける看護師は、「おおむね3~5年以上の実務経験を有する」と想定されています。
これはあくまで、制度を作った側が「このぐらいの看護師が来るだろうと予想している」ということです。これが条件になっているわけではありません。
この研修は共通科目として計315時間、特定行為区分ごとに計15~72時間組まれています。
「夜間コースなどを作り、休職しなくても通えるようにする」ということが厚生労働省などの目標に掲げられています。
ただ、実際にどうなるのかは、これからの様子を見る必要があります。
・指定研修機関
これらを受けることのできるところを指定研修機関といいます。平成28年2月の時点で、次の21か所です。
これも今後、数は増えていくでしょう。
・北海道
北海道医療大 13区分
・東北
岩手医科大 1区分
東北文化学園大 21区分
星総合病院 1区分
・関東
自治医大 19区分
さつき会袖ケ浦さつき台病院 1区分
愛友会上尾中央総合病院 13区分
埼玉医科大 5区分
日本慢性期医療協会 7区分
東京医療保健大 21区分
国際医療保健福祉大 21区分
地域医療振興協会 21区分
日本看護協会 11区分
地域医療機能推進機構東京新宿メディカルセンター 2区分
・中部
愛知医科大 21区分
藤田保健衛生大 21区分
・関西
滋賀医科大 3区分
洛和会音羽病院 5区分
愛仁会 9区分
奈良県立医科大 7区分
・九州
大分県立看護科学大学 21区分
4.ナースプラクティショナーと診療看護師
この特定行為研修が始まるまでに、少し迷走しました。今後もまた様々な見直しがありそうです。
4-1.ナースプラクティショナーとは
この特定行為研修の制度を始める上で、強く意識されているのが、ナースプラクティショナー(NP、Nurse Practitioner)の制度です。
ナースプラクティショナーは、臨床医と看護師の中間的な存在です。「Practitioner」という言葉も、直訳すると「実行者」ですが、「開業医」との意味もあります。
一次医療(外来)での診察・投薬がこのナースプラクティショナー自身で行うことができます。
具体的には「血液検査・X線検査と、その結果を使っての診断」「糖尿病、高血圧、外傷などの急性期・慢性期の症状の診断と治療」まで含まれます。
1960年代中ごろにアメリカで始まりました。今ではイギリスやカナダ、オーストラリア、タイ、イスラエルなど多くの国で採用されています。
資格制になっており、アメリカの場合、州単位での公式のものです。これは日本では医師や看護師と同様の国家資格に当たります。
やはりアメリカの場合を例にすると、ファミリー(小児・成人・婦人科)、成人科、急性期(入院病棟、救急救命室、ICUなど)、小児科、精神科、老年科、成人ガン科、新生児集中医療といった専門に分けられています。
5.診療看護師(特定看護師)とは
「日本にもこのナースプラクティショナーを作ろう」ということで始まったのが、「診療看護師」の制度です。
別名は特定看護師です。アメリカなどのものと日本のものの内容の違いを無視して、そのまま「ナースプラクティショナー」と呼ばれることもあります。
2010年に厚生労働省のモデル事業として始まりました。「試験的に始まった」という言い方でもいいでしょう。
一般社団法人・日本NP教育大学院協議会も作られ、ここが主催する形です。つまりいきなり国家資格にするのではなく、民間資格の形です。
①「協議会が指定する大学院で修士課程を終え、またその中で所定の単位を修める」、②「資格認定試験に合格する」ということで、診療看護師(JNP、Japanese Nurse practitioner)の資格が与えられます。
この診療看護師は「保健師助産師看護師法が定める特定行為を実施することができる」とされています。
ただし、アメリカなどのものと大きな違いがあります。
日本の場合は、どの特定行為をするにも、「医師の指示の下、行う」となっていて、看護師法に定める「診療の補助」を超えることができません。
法律の面でも整備され、発展すれば、公益社団法人・日本看護協会が認定する専門看護師よりもさらに上級の資格になる可能性がありました。
ところが、2014年に保健師助産師看護師法が改正され、「特定行為に係る看護師の研修制度」の新設が決定しました。実際に特定行為研修も2105年10月に始まっています。
これにより、すでに診療看護師の資格を持っていても、特定行為区分ごとの研修を受けなければ、特定行為をすることができなくなりました。
「診療看護師だからといって、特定行為に関しての特別扱いはない」ということです。
この診療看護師の制度は今(2016年2月現在)も続いています。実際に2016年3月には第6回の資格試験も予定されています。
「アメリカ並みの制度にまで発展させたい」とがんばっている関係者もいます。
ですが、かなり中途半端な存在になっていると認めざるをえない状況です。今から準備するのであれば、まずは特定行為研修に狙いを定めたほうがいいでしょう。