EPA看護師で働く!転職前にわかる業界仕事おまとめ
目次
1.EPA看護師とは
国(厚生労働省)の計画として進められているものに「EPA看護師」があります。
政府と政府の間で結ばれた「経済連携協定( Economic Partnership Agreement、EPA)」によって、日本で働くようになった外国人看護婦のことです。
まず2008年にフィリピンから、翌年にはインドネシアから実際に来るようになりました。2014年にはベトナムも加わりました。
ただ、実際に受け入れた医療機関では、なかなかうまくはいっていないようです。上司や同僚となる看護師からも、厳しい意見も聞かれます。今のところ、「失敗だった」という声が圧倒的に多いようです。
数も増えていません。よほど思い切った変更をしない限り、おそらくはこのままでしょう。
それだけに、実際に自分の職場にやってくると、情報が少なく、どう接していいか戸惑うことになりそうです。
そういった時のために、EPA看護師についての最小限の知識は頭に入れておいてもいいでしょう。
2.EPA看護師はどういった人たちか
「EPA看護師」は、正確にいえば、日本に来た時点では「EPA看護師候補者」です。
こちらにいる間に日本の看護師資格を取る手順になっています。そうなって初めて、「EPA看護師」となります。
「候補者」であっても、就労が可能です。「実際に日本の医療現場で働いている」ということです。
3か国とも自分の国では実際に看護師として働いていた人たちです。候補者となるには、フィリピンとベトナムは2年以上、フィリピンは3年以上の実務経験が条件になっているのです。
フィリピンとインドネシアの場合、次のような手順になっています。
・来日前の日本語研修(6か月)
・日本語能力試験受験。N5(最も下のレベル。基本的な日本語をある程度理解することができる)の合格者のみ、さらに6か月の日本語研修
・同時に看護導入研修開始
・来日
・病院で就労・研修
・日本の看護師国家試験を受験
ベトナムの場合、日本語研修の期間が少し異なります。
日本語能力試験は、よりレベルの高いN3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)の合格者だけが来日し、看護導入研修と後半の日本語研修は日本で受けます。
どの国の候補者も、看護師国家試験は3回まで受験可能です。合格しなければ帰国しなければなりません。ただ、その後も日本を訪れ、短期滞在しての受験はできます。
合格してはれてEPA看護師となれば、そのまま日本で働き続けることができます。
このような状況ですから、あなたのそばにいる、あるいは仲間の間で話題になっている外国人看護師は、まだ受験準備中の人と、すでにEPA看護師となった人の両方がいます。
というよりも、大半が受験準備中の人です。看護師国家試験に合格できないままの人が大半です。また、せっかくEPA看護師となっても日本になじめずに帰国する人も少なくないのです。
3.EPA看護師の現状
2008年に最初のEPA看護師候補者が来日した時には、マスコミでも大々的に採り上げられました。「日本の看護師不足を解消する切り札」といった紹介のされ方もしました。
ですが、すぐに、「看護師国家試験の合格率が低い」「途中で帰ってしまう人が後を絶たない」といった話題ばかりになってしまいました。
実際に合格者数・合格率を見ても順調とはいえない状況です。
2009年 受験者・82人、合格者・0人、合格率0パーセント
2010年 254人、3人、1.2パーセント
2011年 398人、16人、4.0パーセント
2012年 415人、47人、11.3パーセント
2013年 311人、30人、9.6パーセント
2014年 301人、32人、10.6パーセント
2015年 357人、27人、7.3パーセント
この間来日した候補者は3か国を合わせると、2,000人を超えています。
今のところEPA看護師となったのは155人です。まだこれから受験する人がいることを考えても、全体の1割には届かないでしょう。
ちなみに、日本人の場合、例年合格率は約90パーセントで、合格者数としても5万人近くになります。
また、せっかくEPA看護師となっても、簡単に帰国してしまう人も少なくありません。
日本アジア医療看護育成会の調査では、2014年10月の時点で、インドネシア人の合格者は87人です。そのうちすでに帰国した人が18人、帰国を予定している人が8人いました。
4.指摘されている問題点
候補者の合格率が低いこと、EPA看護師となってもなかなか日本には居続けてもらえないことについて、様々な理由が指摘されています。
4-1.看護師不足の解消策ではない?
「外国人看護師の受け入れ」と聞けば、「日本の看護師不足を解消するための手段」とだれしもが考えるところです。
ですが、国(厚生労働省)はそうは認めていません。
あくまで、「相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から実施するもの」としています。
「日本からお願いしたのものではない。インドネシアやフィリピンなどのためにやっている」という姿勢なのです。
そのため、別の資格試験を用意するような思い切った手段をとることもありません。
4-2.送り出す側の事情
国と国の取り決めでやっていることなので、これだけ合格者数も少なく、定着率も低いと、送り出しているフィリピンやインドネシアなどの側も頭を抱えていそうなものです。
ですが、どこまで本音かはわかりませんが、意外にもそうではありません。
「日本語の修得は難しいので、日本の看護師国家試験なかなか合格しないのはわかっていた。ただ、受験までの間、日本で働くことはでき、収入が得られる。しかも、日本での経験を積んで帰ってくる人がいることで、自分の国の医療や看護のレベルも上がる」としている相手国の政府関係者もいます。
「簡単に帰ってこられても、それはそれで国にとってのプラスになる」ということです。
また、候補者やEPA看護師たち本人にしても、「ずっと日本にいたい」と思って応募した人は多くないようです。
現地のお金に換算すると、日本での給料はかなりの高額です。このお金が目的の人もいます。こういった人はある程度稼いだら、すぐに帰ってしまいます。
また、政府関係者だけではなく、候補者個人の考えとしても、「日本の医療現場を経験して、それを自分の国に持ち帰りたい」という人もいます。
中には自分の国に帰った後、「日本語のできる看護師」として、日本人患者が多い病院で働いている人もいます。
「どこで働くか、どういった働き方をするかは、本人が決めるべきこと」なのは、日本人でも、インドネシア人・フィリピン人でも変わりありません。
制度をうまく利用したからといって、非難されるようなことではないでしょう。
ただ、この制度には国から多額の援助が出ています。「相手国のためにやっている」というのを言い訳にし、ほとんど成果がないのが放置されています。国に対しての批判があるのは当然でしょう。
4-3.研修は病院任せ
日本に来た候補者たちは、いくら自分の国での看護師の経験があっても、看護技術などのレベルの違いはあります。
3回の受験が可能とはいえ、働きながら勉強(研修)も進める状態でもあります。
しかも、勉強する場は看護学校などではなく、すべてが各病院に任せきりです。
個々の病院には候補者たちをきちんと迎えるようなノウハウはなく、接する人たちに戸惑いが広がっているのが現状です。
4-4.候補者たちの負担が大きい
EPA看護師たちにとって、最も高いハードルになっているのが日本語です。
しかも当初は自国での日本語研修もなく、いきなり日本にやってきていました。
今は来日前に日本語研修も組まれています。また、看護師国家試験の問題用紙には、難しい漢字には振り仮名が付けられたり、病名には英語も併記されるようになっています。
ただ、現実に合格者数は増えず、合格率も上がっていないところを見ると、「効果はなかった」というしかありません。
関係者の中からは、「英語や母国語で受験できるようにするべきだ」という声も聞かれます。
ですが、「それでは薬や器具を間違える可能性が高まる。医師や患者とも意思の疎通ができない」という反対があり、実現していません。
5.日本側の看護師として注意すること
こういったEPA看護師やその候補者が自分の同僚となった場合に、注意するべきことが何点かあります。
5-1.自分の国ではエリート看護師
相手は日本よりは貧しい国から来ています。また、医療や看護も日本ほどには進んでいません。EPA看護師は、だからこそ成り立っている制度です。
だからといって、相手の国や看護師個人をバカにするような態度をとってはいけないのは当たり前のことです。
彼女らは自分の国で看護師としての経験も積み、しかも「さらに勉強したい」「海外に出てでも、先進の医療・看護に触れたい」という向上心のある人たちです。
むしろ、一般的な日本人看護師よりも尊敬されていいところです。
5-2.生活習慣の違い
候補者たちは、日本に来るにあたって、日本の文化や生活習慣はある程度は受け入れる覚悟はできているでしょう。ですが限度があります。全く同じというわけにはいきません。
特に問題になりそうなのが、イスラム教国であるインドネシアです。宗教上の取り決めがたくさんあります。
肌の露出を嫌います。頭には常に「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフをかぶっています。腕程度であっても露出はできません。
また、食事に関しても決まり事がたくさんあります。たとえば豚は厳禁です。肉だけではなく、スープや出し汁に成分として混じっているだけでもNGです。
いくら「郷に入っては郷に従え」であっても、こういった面は尊重する必要があります。
6.歴史上の外国人看護婦
EPA看護師は当初、派手な話題になったものの、現在は細々と続いている程度の状態です。
ですが、ほかの国では、数多くの外国人看護師が誕生した例があります。
たとえば、韓国の「派独看護婦」です。ドイツに渡った看護師をいいます。
始まったのは1966年です。今では日本と大差のない経済状態ですが、その当時の韓国はとても貧しい国でした。一方のドイツは経済発展を遂げ、深刻な人手不足になっていました。
そこで、国と国で協定が結ばれ、看護師(看護助手を含む)が送られることになりました。また、それよりも早く、炭鉱労働者も派遣されています。
結局、看護師の派遣は1977年ごろまで続き、1万人以上の韓国人看護師がドイツに渡りました。
一番最後の韓国人看護婦が定年で仕事を終えたのは2016年1月と、まだ最近のことです。また、「約半分の5千人以上が韓国には帰らず、そのままドイツに残った」といわれています。
同様にフィリピンからもトータルで約7千人の看護師が送られました。こちらも3分の1程度が帰国しなかったとされます。
7.自分が海外で働くには
日本人の看護師さんの中には、逆に「自分が海外で看護師として働いてみたい」という人もいるでしょう。
「国際免許」といったものはありません。災害派遣などで行くのではない限り、やはり現地の看護師免許を取る必要があります。
日本が送り出す側となっての国と国の条約や協定もありません。語学研修や看護師資格受験にも、EPA看護師のような国による後押しはありません。
すでに日本の看護師資格を持っている場合も、国によって、アメリカのように試験にパスするだけで免許がもらえるところと、イギリスのように試験はなく、実務研修を修める形になっているところなど様々です。実務研修は半年~1年のことが多いようです。
また、これら試験や実務研修以外にも様々な条件がついています。
こういった中で、語学力(英語)に問題のない人限定ですが、比較的現地の看護師資格が取りやすいのがニュージーランドです。
まず、申し込みの条件としては、「日本での看護師(正看護師)経験3年以上」「大卒」「勤務先の上司・先輩などからの推薦状3枚」などがあります。
次に、ニュージーランド看護協会が指定する英語試験をクリアする必要があります。
その試験が、最も高いハードルになるでしょう。多くの人は、これのためにニュージーランドでの語学研修だけで半年~1年かかっているようです。
看護師本来の能力としては、「Competency Assessment Course(能力査定コース)」と呼ばれる7~16週間の講義・実習を修了するぐらいで済みます。
あとはいくつかの書類上の手続きがあるぐらいです。