手術室看護の生の声。不安を消す看護師さんの小さいけれど大きな心遣い。
手術する、人は人生であまり多くないこの経験をするとき、とてつもなく不安を感じます。何度も経験しているという人は非常にまれでしょうから、体にメスを入れるという、何とも言えない不安な気持ちを、きちんと汲みとって接してくれる看護師さんがいます。
会えて明るく大丈夫と声かけてくれるのか、不安点をきちんと言葉で説明して何度も気にかけてくれるのか・・・人それぞれで違うでしょうが、看護の現場に立つ人達はこの重要性をきちんと理解して患者さんに向き合っています。
参考出典元 「素顔の看護婦」 木村快 編・著 同時代社
人間を看護するということ 上原美保子(太田病院)
手術室の看護
大田病院の手術室の看護には手術と特殊検査があるんです。たとえばシネアンギオなんかそうですね。シネアンギオグラフィーというのは血管に造影剤を入れて調べるんですが、心臓の中に直接像影剤入れると動きがわかるんです。心筋梗塞でも、どこが詰ったのかよく分かります。六時間以内の硬塞で詰った時は直接カテーテル(管)を入れて、血栓をとかしてしまうんです。その介助と患者さんの把握が一つの仕事ですね。
精神面でも力になりたい。ただ来た患者さんを診るだけ、介助でそのときばっと診ただけでは分かりません。その人の状況などは家庭訪問してみないと分からないことが多いですね。
わたしたちは手術室から病室訪問を行っています。
昔は手術室に看護はないと言われてましたけど、そうじゃないですね。大分変ってきてます。看護婦の中で変ってきたんですね。手術室にも看護はあるんだ、麻酔を打つとき、どこまで手術の不安を和らげることができるか。力づけてあげられるか。極限状態を病室訪問することでその人の不安を取り除いてあげられるし、こちらも患者さんを知っておきたいということもある。痛みのある人には痛くない姿勢にしてあげたりすることができる。それが手術室の大きな課題です。
執刀する医師は消化器外科、整形外科、一般外科、胸部外科、産婦人科とそれぞれ違いますけど、看護婦は同じです。特殊検査の時は内科の先生が入るので付きあいがあります。患者の所まで目が届かないといけないし、先生へも手術をスムーズにさせないといけない。朝八時五十分から午後四時五十分が通常勤務なんですが、手術が延びると付きあわなければなりません。一つのチームに看護婦は五人、みんなフルにかかわります。あんまり長時間の場合は看護婦は交替します。わたしたちも労働組合に入っているけど、やっばり残業しますね。
長い手術は八時間くらいかかります。緊急の場合は夜でも呼び出されます。朝七時ごろまでかかることもあります。そういう時は不思議と眠くないものです。ゆとりもないですけど。夜勤の場合、朝四時まではなんとか頑張れるんですが四時から五時ごろまでがきついですねえ。
不安を取り除く看護
術前看護というのは、患者さんをただ臓器としてじゃなくて、人格としての全体像を持った生活をしている人の手術をするんだ、というところから生まれてきたんだと思います。患者さんは不安を持ちながら手術を受けられるわけで、少しでも不安の除去ができればということです。結構大変なんですけど、わたしたちとしても楽しみなんですよね。ただ先生に器械渡したりだけじゃなくて、この患者さんはどんな人なのかなあとか、どんな声掛けをすればいいのかなってね。ばっとみただけではわからないですよね。でも、ちょっと行って話をするだけでずいぶん違うんです。むこうの方も覚えていてくれて、安心するんですよね。
わたしもこの間、子宮筋腫の手術をしたんです。でも、知っている人たちですからすごく安心でしたね。不安があれば痛みも強く感じるんですよ。こうした不安を取り除く看護は、大田病院ではわたしが来る以前からやっていました。わたしが来る二年くらい前のことだそうですが、小児の患者で手術が不安で不安で、なんとかその不安を軽減してあげようということで、手術室のネームを変えて検査室としたんだそうです。検査というと、ああここなら大丈夫だなって安心して入ったっていうんですね。
そうした看護努力が一例、二例と積み重なって今のかたちになっていったんだと思います。だから本当に看護って積み重ねなんですね。理論的には看護学校の頃から患者中心の看護というはわかっているんですが、漠然としていてね。そういう意味では大学病院なんかでは三年ほどで疲れてやめてしまうといいますが、三年では技術を修得するので精一杯です。ずっと続けていると、人間にも幅が出てきますよね。十年もやっていて、結婚や生活の苦労しながらゃってくると、患者さんを見る目がちがってきます。だから切り捨てられないんですよ。
手術を終ってからは術後訪問に行きます。「どうですか」ってことと、どの程度改善されたか手術中にわたしたちも努力してるけど、そういうことを患者さんがどう感じられたかとか。そしたらまた次にも生かせますしね。普通は、手術の後は病棟に送られて、わたしたちとは縁が切れるわけです。でも大きな病院だったら、こんなこととてもしていられないかもしれませんね。
今ではよその病院でも少しずつやりはじめているそうですが、当時としてはかなり先駆け的なことでしたね。わたしが山梨にいた頃はまだでしたし、教科書にもそんなことは出ていませんでしたからね。もちろん学生時代には教わりもしなかったです。
医療内容はチームワークで決まる
ここの場合は医者との人間関係はうまくいっています。ひどい所ではメスが飛んで来ると聞きますけどね。そんなことはありません。困ってることは相談するし、チームがうまくいかないと駄目ですからね。以前、大学病院にいた時に、医師と看護婦が対立してしまったことがあります。そういうときは結局しわよせは患者さんに行くんですよね。いいチームを組めるかどうかで医療内容が決まると言っていいと思います。緊急手術して亡くなったりすると本当に残念ですね。なんとも言えない気分になってまう。
手術室は割合経験を積んでいる人が多い職場です。大田病院の規定では若手研修が三年目まであって、それ以上は中堅になりますが、そういう意味では中堅以上の人たちです。三年未満は病棟中心で、外来とか透析室は三年以上。そういう風に教育が組まれています。手術室は患者さんと触れる時間が少ないので、若い人たちは敬遠しますね。病室を希望します。
若い人たちは、たしかに時間外だとなかなか出たがらないけど、でも、患者さんのことだったら出てくれますね。時間外でも訪問看護なら出てくれるし、患者のことをまとめたり症例研究とかは一生懸命やってます。だから仕事は生懸命したいし、看護したいと思っている。そこからどういう風に目を広げていくかってことでしょうね。でも、中心は看護でしょうね。これが抜けると、政治的なことだけになると、ちょっとと思いますけど。
ただ、うちの子どもたちを見ててもそうだけど、今の子は勉強はするけど、物を大切にしなくなってますね。それにあんまり本を読まない。友達同士でも家に遊びに来ても、緒に遊ぶんじやなくてそれぞれが自分のことをやってる。外で遊ばない。表面的というか、政治の話でもよく知ってはいるが、あれっと思う時がある。
まとめ
若い看護師さんでも患者さんのためならと、急な要請でも出勤してくる、この部分に心打たれます。人の痛みを知り、人のために仕事をする、一番他人らしい原点が医療現場にはあります。
過酷な労働環境を一刻でも早く改善する、支える人、支えられる人、それぞれが穏やかに過ごすことができる社会をつくるためにできることをきちんとしていくことが大事です。
参考
併せて読みたい関連記事
タグ:現場