精神看護専門看護師について
目次
1.専門看護師のこれまで
専門看護師の制度は1995年に始まり、翌年に第一号の専門看護師が誕生しています。
主催しているのは公益社団法人・日本看護協会です。
看護分野は最初、「精神看護」と「がん看護」の2つだけでした。
次第に増え、今(2015年現在)は11分野あります。
最も多いのは、特に多いのががん看護の581人です。次がこの精神看護の207人です。
逆に少ないのは、在宅看護の22人、地域看護の25人です。まだ新しい分野は当然少ないのです。
全11分野では1,466人です。これはほぼ同じ時期に始まり、やはり日本看護協会が主催する認定看護師(14,172人)の10分の1程度です。
2.「精神看護専門看護師」の看護分野
「精神看護専門看護師」の「分野の特徴」として、この制度を主催している日本看護協会では……
精神疾患患者に対して水準の高い看護を提供する。また、一般病院でも心のケアを行う「リエゾン精神看護」の役割を提供する。
……としています。
2-1.リエゾンとは
この「リエゾン」はあまりなじみのない言葉なので、説明しておきましょう。
英語の「liaison」のことで、「連絡」とか「調整」の意味です。
ここでの意味は「医療スタッフと患者、患者と家族、家族と医療スタッフ、看護師同士などの間に立って橋渡しをする」と考えればいいでしょう。
2-2.精神科看護認定看護師
この「精神看護専門看護師」とよく比較になる対象に、「精神科看護認定看護師」があります。
「キャリアアップをするにはどちらのほうがいいか」と迷っているような人も多いでしょう。
「認定看護師」はようやく人々に知られるようになってきました。ですが、この「精神科看護認定看護師」だけはすこし特殊です。
ほかの21分野の認定看護師は「日本看護協会」が主催しています。
ですが、この「精神科看護認定看護師」だけは「日本精神科看護協会」独自の資格です。
資格取得には8か月の教育課程を修めるか、これと内容は同じで2年間に期間を延ばし、仕事と同時進行しやすいようにした教育課程を修める必要があります。
その上で試験に合格する必要があります。
こちらの方は、資格の所有者は611人います。
このようにほかの認定看護師と違う面はあります。ですが、趣旨としては同じと考えていいでしょう。
3.どこが違うの?
その上で、「精神科看護認定看護師」と「精神看護専門看護師」の違いはといえば、
認定看護師は自身も臨床の現場のスタッフとなり、看護に当たる。専門看護師はそれプラス、マネジメントまで求められる
といった点です。
「マネジメント」とは「ほかの看護師を部下として指示・指導・教育する。その部署の責任者となる」ということです。
もちろん、実際にどうしているかはその職場ごとの事情に応じて違いがあります。
4.大学院では何を学ぶか
精神科看護認定看護師に比べ、精神看護専門看護師がどうしても少なくなってしまう理由としては、資格試験の受験条件に、「大学院の修士課程を修了すること」&「その大学院で精神看護専門看護師用に指定している単位を取得する」があるせいでしょう。
具体的に「精神看護専門看護師には何が求められるか」を知る参考にもなるでしょうから、大学院での授業科目をチェックしてみましょう。
4-1.授業科目
A「専攻分野共通科目」
1.制度や体制に関する科目 2.精神の健康生活状態の評価に関する科目 3.精神領域のセラピーに関する科目 4.精神看護の援助法に関する科目
B「専攻分野専門科目」
1.クリティカル精神看護 2.リハビリテーション精神看護 3.薬物依存精神看護 4.リエゾン精神看護 5.メンタルヘルス看護
C「実習科目」
「専攻分野共通科目」はこの4つともが必修です。つまり必ず授業を受け単位を取らなければなりません。
「専攻分野専門科目」の方は、自分の興味や専門としたい分野に合わせて選択するようになっています。
4-2.CNS共通科目
看護教育論、看護管理論、看護理論、看護研究、コンサルテーション論、看護倫理、看護政策論
7項目が用意されています。
「CNS」とは「Certified Nurse Specialist(専門看護師)」の頭文字です。
つまり、「CNS共通科目」とは「精神看護専門看護師に限らず、ほかの分野の専門看護師にも修める必要がある科目」ということです。
これもこの中からいくつかを選択するようになっています。
こういった形で精神看護専門看護師のための科目を用意していた大学院は、2015年の場合で約40か所ありました。
4-3.実務研修とは
専門看護師の資格試験を受けるために、もうひとつ条件となっているのが「実務研修」です。
①看護師の資格取得後、通算5年以上実務研修をしていること。そのうち通算3年以上は専門看護分野の実務研修であること。
②専門看護分野においてa~fの内容の実務研修をしていること
a 個人、家族及び集団に対する直接的な看護実践 b 看護者を含むケア提供者に対するコンサルテーション c 必要なケアが円滑に行われるための、保健医療福祉に携わる人々の間のコーディネーション d 個人、家族及び集団の権利を守るための、倫理的な問題や葛藤の解決をはかる倫理調整 e ケアを向上させるための、看護者に対する研修会、研究指導及び講演会等での活動を含む多様な教育的機能 f 専門知識及び技術
③現在、常勤、非常勤を問わず看護実践を行っていることが望ましい。
この①~③を満たさなければなりません。
また、精神看護専門看護師の場合、この「専門看護分野……実務研修」は……
精神病院・総合病院の精神科病棟・精神病院の外来や訪問部・精神科クリニック・精神科デイケア・精神保健福祉センター等の場での、精神看護の実務研修。
ただし、リエゾン精神看護を志望する場合は病院での精神看護の実務研修とするが、精神病院・総合病院の精神科病棟である必要はない。その場合、履歴書および勤務証明書に、リエゾン精神看護の実績の内容について具体的に明記すること。
となっています。
かなり難しいことを書いているように見えます。要は「自分の専門としたい分野と、実際の仕事場でやっている内容を一致させておくこと」ということです。
もし、そうなっていないのならば、転職などを考える必要もあります。
ただし、これは大学院に入る前に条件を整えておく必要はありません。
「先に大学院を終え、その後に専門に関係した勤務先を探す。専門看護分野でトータルとして3年を過ぎるのを待って、そこで受験する」という手順でもOKです。
①と③は認定看護師でもほぼ同様の条件が付けられています。
②のa~fについては、資格試験の受験の際に、その内容をすべて文章にし、提出し、審査を受けることになります。
5.専門看護師の合格率は?
大学院の修士課程を終え、実務研修も条件を満たしたならば、ようやく精神看護専門看護師の資格試験を受けることができるようになります。
まずは一次審査として書類選考があります。
ここで②に挙げたa~fがチェックされます。
それをパスすれば、二次審査に進みます。ここでは「看護実績報告書」(修士論文、教育活動報告など)を提出し、論述式の筆記試験を受けます。
このように資格試験はかなり内容の濃いものになっています。
ですが、受験資格を得るための準備をしている間に自然とそろうようなものばかりです。
精神看護専門看護師だけではなく、あくまで専門看護師全体での数字ですが、合格率は例年95パーセント以上になっています。