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エキノコックスとは?どんな症状、原因は?キツネがと人間を行き来する怖い虫

   

「怖い寄生虫」とだけは知っているのに、なかなかよくわからないのがエキノコックスです。

「感染しないようにしましょう」といっても、その感染するバターンがイメージしにくいです。生態がちょっと複雑なのです。

また、中には「北海道限定の寄生虫」と思って油断している人もいます。確かにそういった面はあります。ですが、住んでいなくても、北海道に旅行でもして、そこで感染してしまう可能性もあります。
いったん症状が出てしまうと、治療方法がないわけではないですが、完治はかなり難しいです。ですから、感染しないことが何よりも大事になるのです。

1.エキノコックスはサナダムシの仲間

エキノコックスは、寄生虫の一種ですが、比較的よく名前を聞くものでいえば、サナダムシに近いです。

実は数種類あります。特に問題になるのは、「多包条虫(たほうじょうちゅう)」と「単包条虫(たんほうじょうちゅう)」の2種類です。その症状も、「多包性エキノコックス症」、「単包性エキノコックス症」といったように区別されます。

2.多包条虫

2-1.多包条虫の生態

よく「キタキツネが持っている。だからキタキツネには注意」といわれるのは、多包条虫の方です。

多包条虫は成虫になると、小さいものは1ミリ強、大きいものは約4ミリになります。

「虫卵 → 虫卵から六鉤幼虫を放出 → 六鉤幼虫が包虫に成長 → 包虫が成虫に成長」と変化します。成虫が虫卵を産んでまた、このサイクルが繰り返されます。

ただし、成虫自体は直接的には人間には関係しません。体内に寄生することもありません。

虫卵の状態で人間の口から入ると、この虫卵が体内で成長を始めます。人間の体内では成虫にまで成長することはなく、包虫止まりなのです。

2-2.多包条虫による症状と治療

人間に害を与えるのは、包虫になってからです。包虫は集まって、肺、肝臓、脳などに大きな塊を作ります(多房性)。この塊が臓器を破壊します。

どんどんその塊が大きくなって、巣くっている臓器を損なっていくのですから、がんに似た症状になることもあります。

逆に塊が小さいうちは症状も出ません。ただ、「いったん症状が出て、それを放置すると、約7割が5年後までに亡くなる」といったデータもあるぐらい怖い寄生虫なのです。

主な治療法は手術ですが、その時には実は手遅れになっていることがほとんどです。

感染してから、症状が出はじめるまでに、子供で5年、大人で10年以上かかるとされています。ですから、これからご説明するようなかかりやすい状況に今はなっていなくても、何年も前にそうならば、決して安心はできません。

3.終宿主と中間宿主

多包条虫がよくわからないのは、「こういった場合ならば、感染する可能性がある」がとても複雑なのも理由のひとつでしょう。

先に思い切って、多包条虫の一生を単純化してしまうと、「前半は野ネズミの体をすみかにし、その野ネズミが運良くキツネやイヌに食べられたのならば、今度はキツネなどの体をすみかにして大人にまで成長する」ということになります。

理解するためにキーワードとなるのは、「終宿主」と「中間宿主」です。

・中間宿主(ちゅうかんしゅくしゅ)

幼生の寄生する相手のことをいいます。幼生とは成体になる前の段階のものです。チョウでいえば、幼虫のイモムシのようなものです。。

多包条虫の場合は、包虫が幼生です。

この包虫が寄生するのは、主に野ネズミです。人間もなることがあり、被害が出るのはそのためです。

体内で虫卵から包虫にまで育ててしまいます。ただし、包虫から先にはこれらの体内では成長せず、成体にまではなりません。

・終宿主(しゅうしゅくしゅ)

その名前の印象から受けるように、「寄生虫などが一番最後にすみかにする相手」です。多包条虫の場合は、体内で成虫まで育ってしまう相手をいいます。

これは、キツネ、オオカミ、タヌキなどです。さらにイヌやネコまでといったペットまで含まれるために、警戒が必要なのです。

成虫にまでなりますので、もちろん、虫卵もこれらの体内で産みます。それはフンに混じって撒き散らされます。

ただし、キツネやイヌなどがその虫卵を口から入れても、放虫まで成長しません。体内で育つのは六鉤幼虫や包虫からあとです。「虫卵からはキタキツネもイヌもエキノコックス(多包条虫)にはかからない」ということです。

4.実際に問題になるパターン

このように複雑なのですが、私たちの身の回りで実際に気をつけなければいけないのは、次のような二つのパターンでしょう。

・人間が感染してしまう

人間が食べ物に混じっていたり、手に付いた多包条虫の虫卵を口に入れてしまい、それが体内で包虫まで成長し、その塊が臓器を破壊する

・人間が感染しやすい状況を作ってしまう

ネズミなどが虫卵の混じったものを食べ、体内で六鉤幼虫や包虫にまで成長させる → キツネやイヌがそのネズミなどを食べ、体内に六鉤幼虫や包虫を取り込んでしまう → やがてキツネやイヌの体内で成虫にまで成長し、虫卵を生む → キツネやイヌのフンに混じって、虫卵が撒き散らされる

このサイクルができてしまうと、その周囲に虫卵もばらまかれることになります。

5.北海道の場合

これが北海道であれば、野ネズミの中でも、特にエゾヤチネズミが中間宿主(虫卵から感染する)となり、そのエゾヤチネズミをキタキツネやイヌが食べて終宿主(体内で成虫にしてしまう)となります。

そしてそのキタキツネが身近にいたり、イヌを飼っていると、そのフンに混じっていた虫卵が人間の口にはいってしまうことがあるのです。特に北海道で問題になるのは、このキタキツネが野山だけではなく、市街地など人間が暮らしている場所のごく近くで、普通に見られるためです。

また、困ったことに、キタキツネやイヌは終宿主となっていても、全くといっていいぐらい症状は出ません。虫卵を撒き散らしていても、気がつくことがないのです。

ブタやウシ、ウマも人間同様に中間宿主として包虫を持っていることがあります。そのウシやウマを刺し身で食べると、包虫を口から入れることになります。ですが、この場合はそれほど問題ありません。包虫を口から入れたからといって、その包虫自体がさらに繁殖して数が増えることもありません。人間の場合に、直接的に問題になるのは、あくまで虫卵だけです。

6.多包条虫を防ぐには

実際に気をつけることは、次のようなものです。

・イヌを放し飼いにしない。イヌの散歩の時も目を離さない

これはもちろん、エゾヤチネズミを食べさせないようにするためです。

ネコは特に外飼いにしているとネズミを捕らえて食べます。ですが、多包条虫にとって、あまりいい終宿主ではないようです。「感染し、体内に成体がいても、卵を排出することは少ない」と考えられています。

問題になるのはイヌのほうです。好き勝手にさせていると、エゾヤチネズミなどを捕まえて食べてしまうものが出てきます。これは家の庭先でも野ネズミが出没するようならば、その分だけ感染の可能性が高いと考えておいたほうがいいです。

室内飼いだからといって安心もできません。散歩の時が要注意です。

他府県からの旅行者が注意すべき点もここです。犬連れでやってきて、「広々とした野原で思いっきり遊ばせてやりたい」といったことをやると、感染の可能性が高くなります。

しかもそうやって自分まで感染していても、症状として気がつくのは、10年以上も先になるのですから厄介です。

・イヌに定期的な検査を受けさせる

先にお話ししたように、見た目には、イヌの体内に成体がいるかどうかはわかりません。なので、定期的に検査を受けさせるようにしましょう。

また、これまでに何度か感染したことのあるイヌは定期的に検査を受けたほうがいいです。それだけ、どこかでエゾヤチネズミなどを捕らえて食べている可能性が高いです。

ちなみに、「北海道中のイヌの約1パーセントが多包条虫をもっている」といった調査結果があります。

検査で多包条虫が発見されたら、駆虫薬を与えます。代表的なものはプラジカンテルです。副作用も少なく、投薬後2、3日で腸の中からすっかりいなくなります。

また、ペットが感染していたのならば、飼い主など身近な人たちも検査を受けたほうがいいです。これは血清をチェックします。

北海道内ならば、市町村の保健所で無料で受けることができます。

・虫卵対策

すでに撒き散らされている虫卵は熱湯消毒が特に有効です。ですが、なかなか完ぺきに自分の周囲すべてで全滅させるのは難しいです。専門家に相談したほうがいいでしょう。

・衛生に気をつける

特に北海道内では次のことに気をつける必要があります。

井戸水や沢水を加熱せずに飲まない
しっかりと洗浄されていない生野菜は食べない
野良イヌ、野良ネコ、野生動物などに手を触れない
ペットであっても触れたあとはしっかりと手を洗う

もちろん、虫卵を口に入れないためです。

7.単包条虫

「人間は中間宿主になる」「イヌなどから虫卵をもらってしまうことがある」などは、多包条虫と同じです。

ただ、中間宿主になる動物は、多包条虫は主に野ネズミであるのに対し、こちらはヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギといったように種類が多いです。

そのため、世界的にはこちらの方が感染者が多いです。

ただ、日本ではごくまれに海外で感染した人が帰国後に発症する程度です。

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