あまりに早過ぎる、アイドル・丸山夏鈴さんの死~“小児脳腫瘍、手術と再発のくり返し、歌手活動”全力で駆け抜けた21年~
2016/07/31
小児脳腫瘍で闘病中だったアイドルの丸山夏鈴(まるやま・かりん)さんが転移性肺がんのため、5月22日に亡くなりました(享年21歳)。
丸山さんを苦しめた小児脳腫瘍、および成人脳腫瘍とはどんな病気なのでしょうか? 今回は脳腫瘍についてまとめました。
丸山夏鈴さんが苦しんだ小児脳腫瘍とは
小学2年生(7歳)だった丸山夏鈴さんが発症した脳腫瘍(のうしゅよう)とは、頭蓋(ずがい)骨の中に発生した腫瘍のことで、具体的には脳および脳の周りの膜や神経にできた腫瘍のことをいいます。
腫瘍は、正常な細胞に複数の遺伝子異常が重なり合った結果、周りの細胞や体の組織の調節を無視して勝手に細胞が大きくなる病気です。
腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)があります。良性腫瘍は放っておいても深刻な問題になることはあまりありませんが(例えば皮膚にできる良性腫瘍がイボやホクロ)、悪性腫瘍は周囲の細胞を破壊したり、圧迫しながら周辺に広がったり(浸潤・しんじゅん)、他の臓器に飛び火(転移)します。そうなってしまったら完全に治すことが大変難しくなります。
小児脳腫瘍の2/3は悪性(がん)
脳にできた腫瘍は多くの場合、悪性腫瘍になります。一方、脳の周りの組織にできた腫瘍のほとんどは良性腫瘍です。
大人になってから発症する成人脳腫瘍では悪性腫瘍はおよそ1/3ですが、残念ながら子どもの時期に発症する小児脳腫瘍では脳の周りにできる腫瘍が少なく、その2/3は悪性腫瘍となります。丸山夏鈴さんの場合も悪性腫瘍だったのです。
脳腫瘍の治療は通常、手術でできる限り腫瘍を取り除く方法を試みますが、悪性腫瘍には脳の中にしみ込むように入り込んでいく性質があります。
脳は、体を動かす、見る、聞く、話す、呼吸するなど、ヒトが活動するための重要な機能を調節する役割があります。従って脳の内側に入り込んだ悪性腫瘍に対しては、他の臓器のように周辺まで含めて大きく取り除くことができません。
目標の腫瘍を完全に取り除くことができなかったときは、放射線を照射する放射線療法や抗がん剤の化学療法などの補助療法を併用した治療を行うことがあります。
病気が再発した場合は再び腫瘍を取り除く治療を行います(丸山夏鈴さんは手術を7回行いました)。
年間約500人が小児脳腫瘍と診断される
小児期の悪性脳腫瘍は小児がんのなかで白血病に次いで2番目に多い病気です。小児がん患者の5人に1人(2割)と高い発生率となっています。
20歳以下の日本人の脳腫瘍の発生率は人口10万人に対して2~3人、年間約500人の子どもが小児脳腫瘍と診断されるといわれています。小児脳腫瘍の原因は現在のところ不明です。
「子どもが変だな」と思ったら、かかりつけ医に相談する
小児脳腫瘍の症状としては、腫瘍の発育によって頭蓋内部の圧力が高まることから、一般的に頭痛や嘔吐(おうと)、けいれん発作を起こすなどがあります。またよろけたり歩行がおぼつかなかったり、顔面がゆがむなど個人差があり、多彩な症状が現れたりしますので、「子どもが変だな」と思ったらかかりつけ医に相談することをお勧めします。
小児脳腫瘍の死亡率についてわが国では正確な統計はとられていません。ちなみにアメリカで公表されている統計によれば、がんがない状態で5年間生存できる見込みは、4歳以下の小児脳腫瘍では約25~46%、5歳以上は70%以上となっています。
気付かれない“患者数6~12万人”の転移性脳腫瘍
次に大人の脳腫瘍、つまり成人脳腫瘍(以下、脳腫瘍)をみてみましょう。
脳腫瘍は大きく分けると、脳組織自体から発生した原発性脳腫瘍と、肺がんや乳がんなどの他の臓器のがんが脳に転移してきた転移性脳腫瘍の2種類があります。
“年間1万人に1人に発生”する原発性脳腫瘍
原発性脳腫瘍も小児と同じように良性腫瘍と悪性腫瘍に分類され、さらに悪性度別に4段階に分けられます。
グレード4が最も悪性度が高く、グレード1が良性です。良性腫瘍の多くは腫瘍を取り除く(摘出)手術によって治癒(ちゆ)する可能性が高くなります。手術で全摘出した場合でもときに再発することもありますが、何年も後のことがほとんどです。
これに対して、悪性腫瘍の多くは腫瘍が脳のなかに深く入り込んでいて腫瘍を全部取り除くと脳機能を大きく損なう可能性があるため、全摘出はなかなか困難です。従って、悪性腫瘍の手術後は放射線療法や化学療法を行う必要があります。
原発性脳腫瘍はおよそ1年間に約1万3,000人~1万6,000人が発症すると考えられています。また、1年間の死亡数は2,000人ほどと報告されています。
“余命の延長など”が期待できる転移性脳腫瘍の治療
もともとの臓器に生じたがん(原発巣)のうち、転移性脳腫瘍を多く発生するがんでは、肺がんが最も多く、約半分を占めます。次いで乳がん(約9%)、直腸がん(約5%)、胃がん(約5%)などで、以下腎がん、大腸がんなどが続いています。
脳転移にかかる期間は、肺がんでは平均4カ月、乳がんでは平均3~4年といわれます。
転移性脳腫瘍の治療は、①がんの種類および、②転移した臓器のがん(転移巣)の場所や数によりますが、摘出手術と放射線療法、化学療法を組み合わせて行います。摘出手術は、原発巣の再発や脳以外の臓器に転移がなく、脳の転移巣も1回の手術で全摘出が可能な場合に行われます。特に、腫瘍が大きい場合などはなるべく早めに手術を行います。
ちなみに転移性脳腫瘍の治療については、「脳への転移があるということはがんの末期状態ということなので、治療は無意味ではないか?」という考え方もありますが、転移が脳に限定されていて原発巣や他の臓器の転移巣が良好に治療されている場合、脳への転移があっても“末期”ということにはなりません。
適切な治療は、脳への転移があることで生じる麻痺や頭痛に対して治療を行い、つらい症状をとって患者さんの余命を延ばすことなどが期待できます。従って、脳に転移があっても積極的に治療することはしばしばあります。
“年間5万人以上が発症” している転移性脳腫瘍
がんになった患者さんの約10%に生前、転移性脳腫瘍が見つかります。
しかし、患者さんが死亡した後に行う解剖では20~40%の人に転移性脳腫瘍が見つかるといわれています。これを患者数に当てはめてみると、転移性脳腫瘍の患者さんは1年間に5万人以上が発症し、患者数は6~12万人と推定されます。
しかし、実際に治療の対象となる転移性脳腫瘍患者数はそれほど多くありません。その理由としては、原発巣が悪化して脳転移に気付かれない場合や、転移性脳腫瘍が小さくて無症状であることなどから気付かれない場合が多いためだと考えられています。
こんな症状が出たら気を付けよう!
脳腫瘍(原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍)の症状としては、腫瘍が大きくなることで頭蓋内の圧力が上がって起きる頭痛が代表格です。この頭痛は早朝に強いのが特徴で、しばしば悪心(おしん・吐き気)を伴います。
また、脳機能障害の症状として麻痺(まひ)やしびれなどがあり、さらにはひきつけ(てんかん発作)、物覚えの悪さ(精神症状)などがあります。早朝の頭痛が続く、などという変化が現れたら脳腫瘍を疑ってみることも大切です。
脳腫瘍の原因は不明ですが、現在では脳腫瘍全体の5年生存率は75%を超えるようになりました。
脳腫瘍を悪化させる危険因子として、高タンパク・高脂肪食品の過剰摂取、過度のストレス、喫煙などが挙げられます。脳腫瘍予防の観点からは、他の疾患予防にも共通することですが、食生活の工夫および日常生活の改善(ストレスの上手な発散、適度な運動、禁煙、規則正しい生活の心がけなど)をぜひ行っていただきたいと思います。
丸山夏鈴さんの痛ましい死から、私たちも学ばなくてはいけないと思います。
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