ジャメヴ(未視感)って?デジャブの反対の脳の病気なの?
「デジャブ」は時々話題になることがあります。日本語では「既視感」です。
「全く未体験のものなのはずなのに、どこかで経験したことがあるような気がしてならない」といった状況をいいます。ちょっとミステリアスな感じがありますので、よく物語のストリーとしても採り上げられたりします。
実は、この逆もあるんですよ。「ジャメヴ」といいます。フランス語の「jamais vu」で、カタカナでは「ジャメヴュ」「ジャメブ」といった書き方もします。
日本語では「未視感(みしかん)」の意味です。
「よく知っているはずのものが、全く目新しい。未経験のように思える」といった状況を指します。
「おもしろいなぁ」で済ませてばかりもいられません。ひょっとしたら、深刻な脳のトラブルの前兆であるかもしれないのです。
1.ジャメヴとは
1-1.デジャブとジャメヴ
デジャブであれば、
・生まれて初めての土地にきた。だけども、その風景を見たことがある気がする。「ひょっとしていたら自分は住んでいたかもしれない」とさえ思う。だけども、いつのことだか思い出せない。
・初めて食べたものなのに、この味を知っている。だけども、いつ、どんな状況で食べたかの記憶が全く無い。
といったのが典型です。
「よく知っている風景とそっくり」「前に食べたことのあるものと同じ味がする」というのとは違います。「そのものズバリを知っている。だけども、経験した記憶がない」というのが、デジャブです。
逆がジャメヴです。
・通勤・通学でいつも使っている道なのに、見える風景が全く新鮮に思える。
・ずっと前から家の中の同じ場所に飾ってあった置物のはずなのに、今、初めて見たような気がする。
といったものをいいます。
やはり、「自分のものの見方が変わったので、全く違ったものに見える」というのではなく、「すでに知っていたはずなのに、その存在を忘れてしまっている。思い出せない」といった場合にいいます。
もちろん、記憶喪失とも違います。何もかも忘れているのではなく、あるものに関してだけが、それにまつわる記憶が抜け落ちていたり、経験したという実感が全く持てない状態をいいます。
1-2.デジャブとジャメヴの原因
物語であれば、デジャヴは、「今の世に生まれ変わる前の世界で、すでに経験していたのだ。生まれ変わったことは自分では気が付かずに、それでいながら前世の記憶の一部が残っている」といった話にしてしまうこともよくあります。
これが実際にあるのかどうかはわかりません。というよりも、「生まれ変わる前の世界」を考えている時点で、科学で扱うよりは、宗教などで扱う問題です。
また、科学の方からも、原因の説明として決定的なものはありません。仮説がいくつか出されている段階です。
一方、ジャメヴはそれ単独で解明しようという話はあまりきかれません。
おそらくは、デジャブのほうがまだしもイメージがわきやすいのでしょう。ジャメヴにかんしては、「デジャブと裏返しのことが起きている」「現象の出方の違い」ぐらいの説明になってしまうことが多いようです。
・生理現象説
デジャヴの原因を「脳内の感覚情報の処理をする時の混乱」と見る専門家もいます。
「目で見る」「舌で味わう」といった体験をすると、たくさんの感覚情報が発生します。その感覚情報は、いくつものルートを使って、最後は脳に到達します。これを情報処理し、再構築することで脳は体験として記憶に刻むことができます。
ですが、一部の感覚情報が何らかの理由で遅れてきてしまうことがあります。となると、「いま情報としてキャッチし、脳内で再構築した体験」とは別の一組の再構築した体験ができてしまいます。
このどこから来たかわからない分を、「過去にみたことのある風景」「食べたことのある味」と脳のほうで無理やり解釈してしまうのです。これが、「どこでどうやって得たかわからない体験」、つまりデジャブとなってしまうというわけです。
この生理現象説だけでも、ほかにもいくつもの説明が試みられています。
・脳内の発作説
脳の中にある海馬傍回(かいばぼうかい)では、空間に関する情報の処理と、慣れに関する情報の処理などを受け持っています。ここにダメージがあると、風景が認識できないとったトラブルが起こることがわかっています。
「何らかの理由で、この海馬傍回がごく小さな発作やけいれんを起こすことで、記憶が混乱する」というのが、この説です。
このふたつはいずれも、デジャヴを記憶の混乱と考えています。
これら以外では、「私たちに見えているのとは別の宇宙(parallel universes)がいくつも存在している。それが何らかのはずみで、見えてしまうのだ」とする考え方もあります。
ほとんどSFのような話ですが、理論物理学の専門家の中にも、これでデジャブを説明しようとする人もいます。
1-3.ジャメヴよりもデジャヴの方が一般的
もうひとつ、デジャヴばかり注目を浴びる明らかな理由があります。デジャヴは決して珍しいことではないのです。「7割以上の人が、過去にデジャブが起きたことがある」とする調査結果もあるぐらいです。
これに対して、ジャメヴの方はごくごくまれです。
2.精神疾患の予兆の場合もある
ただ、「あまり経験する人がいないから」といって、ジャメヴを軽視してはいけません。
どちらも脳のトラブルの前兆とし出ている場合があります。どうやら珍しい分だけ、ジャメヴが出た時のほうが警戒が必要なようなのです。
考えられる脳のトラブルの代表的なものは、側頭葉てんかん・離人症・統合失調症です。
2-1.側頭葉てんかん
てんかんにはたくさんの種類があり、原因も症状も様々です。
その中で、特に側頭葉てんかんと呼ばれるものがあります。大人のてんかんの中ではかなり多い方です。
側頭葉は大脳を作る大脳葉の一種で、その名前の通り、大脳の両わきの部分にあります。言語、記憶、聴覚などをコントロールしています。ここのトラブルで起こるてんかんが、側頭葉てんかんです。
・抗てんかん薬が効きにくい
・発作が出た時は、意識がなくなっていることが多く、ケガや事故につながりやすい
といった特徴から、てんかんの中でもかなり厄介なものです。
2-2.離人症
物事や自分自身への現実感が全くなくなっている状態です。
原因はよくわかっていません。ほかの精神障害の症状のひとつとして出る場合もあります。
・目に入る風景や人物が、まるで絵はがきに書いてあるだけのように、全く現実のものとして感じられない
・自分の体が自分のものとは思えない
・自分がやっている行動なのに、その実感がない
といった症状が急に出たり・治まったり、あるいは何年も続いたりします。
心理療法、行動療法、催眠療法などが用いられますが、決定的なものはありません。治りにくいとされているものの、気がつけば自然と治っていたような場合もあります。
2-3.統合失調症
「音楽が聞こえる」「周りの人が自分の悪口をいっているのが聞こえる」といった幻覚が見えたり、「だれかに操られている」といった感覚を持つのがひとつのパターンです。
あるいは、「喜怒哀楽がまったくなくなる」「集中力がない」といったパターンで症状が出ることがあります。
原因はよくわかっていませんが、遺伝による影響も考えられています。
あるいは、脳の器質的な異変、つまり、前頭葉・側頭葉・海馬・扁桃体などに十分な大きさがなく、それが十分に働かないことから来ている場合もあります。
本人に対しては薬物治療が中心になります。
また、心理社会的治療(社会生活をサポートするための治療)を同時に行うのが一般的です。心理社会的治療は患者本人だけではなく、家族へも必要になります。
ジャメヴもデジャヴも幻覚とは別のものです。それらだけで統合失調症を疑う必要はありません。
ですが、「やがて幻覚も出ることがある。幻覚までいったら、統合失調症の症状のひとつである可能性も高い」といったところです。
既視感(デジャヴ)とは一時的な記憶障害なのか、過去に見た経験があるのか?という謎
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